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シェーグレン症候群は唾液分泌が低下しやすく、う蝕(虫歯)や歯周病のリスクが高まることが知られています。しかし、なぜそのようなリスクが生じるのか、具体的なメカニズムや予防策を知っている方は多くありません。本記事では、シェーグレン症候群がもたらす口腔内トラブルの原因や、日常生活で実践できるセルフケア、歯科医院での適切な対応ポイントまで、専門的な視点からわかりやすく解説します。
1. シェーグレン症候群がう蝕や歯周病リスクを高める医学的理由
シェーグレン症候群は、主に唾液腺の機能障害によって唾液分泌が減少する疾患です。唾液が減ることで、う蝕(虫歯)や歯周病の発症リスクが大きく高まることが知られています。唾液には自浄作用や抗菌作用、pH緩衝など複数の役割があり、これらが障害されることで、口腔環境が悪化しやすくなります。以下では、シェーグレン症候群がう蝕や歯周病のリスクを高める具体的な医学的理由を解説します。
1.1. 唾液自浄作用の低下
唾液は、食べかすや細菌を洗い流す自浄作用を持っています。しかしシェーグレン症候群では唾液分泌が著しく低下するため、口腔内に食物残渣や細菌が長時間残りやすくなります。その結果、歯の表面にプラークが形成されやすくなり、う蝕や歯周病の原因となる細菌が増殖しやすい環境が生まれます。唾液による洗浄力が弱まることで、日常の口腔ケアだけではリスクを十分にコントロールできなくなることがあります。
・唾液分泌低下で食べかすが残りやすい
・プラーク形成が促進される
・細菌増殖の温床となる
・通常のケアではリスク管理が難しくなる
1.2. 抗菌成分の減少
唾液にはリゾチームやラクトフェリン、免疫グロブリンA(IgA)などの抗菌成分が含まれており、細菌の増殖抑制や中和に重要な役割を果たしています。シェーグレン症候群による唾液分泌量の低下は、これら抗菌成分の供給不足を招きます。そのため、う蝕や歯周病を引き起こす細菌への抵抗力が弱まり、口腔内細菌叢のバランスが崩れやすくなります。抗菌防御の低下が、リスク増大の一因です。
| 抗菌成分 | 役割 |
|---|---|
| — | ————————— |
| リゾチーム | 細菌の細胞壁分解による殺菌作用 |
| ラクトフェリン | 鉄の奪取による細菌増殖抑制 |
| IgA | 細菌付着阻害・免疫バリア機能 |
1.3. pH緩衝能の低下
健康な唾液は、口腔内の酸性化を防ぐ「pH緩衝能」を持っています。食事や細菌の代謝によって産生される酸を中和し、エナメル質の脱灰を防ぐ働きを担います。しかしシェーグレン症候群では唾液の量と質が低下し、このpH緩衝の力も弱まります。その結果、歯の表面が酸性に傾きやすくなり、う蝕のリスクが高まるのです。特に糖分摂取後の酸性環境が長く続くことが問題となります。
| 唾液の役割 | 期待される効果 |
|---|---|
| — | —————– |
| pH緩衝能 | 酸性化防止・脱灰抑制 |
| 酸中和 | 虫歯の発生リスク軽減 |
| エナメル質保護 | 歯の健康維持 |
1.4. 歯周組織の免疫力低下
唾液中には歯周病原菌に対する免疫成分が含まれていますが、シェーグレン症候群ではこれらが不足します。さらに、慢性的な乾燥により歯肉などの粘膜バリアが弱くなり、細菌の侵入や炎症が起こりやすくなります。歯周組織の局所免疫が低下することで、歯周病の発症や進行が促されるリスクが指摘されています。歯肉炎や歯周炎への注意が必要です。
・免疫成分不足で歯周病原菌に弱くなる
・粘膜バリアの防御力が低下
・炎症や組織破壊が進みやすい
・歯周病の進行速度が早まる
1.5. 口腔内細菌の増殖
唾液の分泌が少なくなると、口腔内が乾燥し細菌の増殖環境が整います。通常は唾液による洗浄や抗菌作用で細菌数がコントロールされていますが、シェーグレン症候群ではこのバランスが崩れやすくなります。特にう蝕や歯周病の原因となるミュータンス菌やポルフィロモナス・ジンジバリスなどの増殖が促進され、疾患リスクが高まります。細菌のコントロールが困難になりやすい点も、見逃せない問題です。
| 原因菌 | 主な疾患 |
|---|---|
| — | — |
| ミュータンス菌 | う蝕(虫歯) |
| ポルフィロモナス・ジンジバリス | 歯周病(歯周炎) |



